【目的】グリア細胞、神経細胞、心筋細胞の分化、成長に重要な役割をもつペプチド性の増殖因子であるヘレグリンは、ヒトの動脈硬化病変に高度に発現しているが、その役割は明らかでない。本研究では、動脈硬化性疾患におけるヘレグリンβ1の病態生理学的意義を検討した。 【方法】(1) 急性冠症候群患者(31名)の血中ヘレグリンβ1濃度を測定し、健常対照者(40名)と比較した。(2) 17週齢のアポE欠損マウスの皮下に埋め込んだオスモミニポンプを用いてヘレグリンβ1を4週間持続皮下注し、大動脈の動脈硬化病変に対する効果を検討した。(3) ヒト末梢血単球を7日間培養してマクロファージに分化させた。このとき同時にヘレグリンβ1を添加して、7日目にアセチル化LDLによるコレステロールエステルの蓄積(泡沫化)に対する効果を検討した。 【結果】(1) 急性冠症候群患者の血中ヘレグリンβ1濃度(1.3ng/ml)は健常者(8.2ng/ml)に比較して顕著に低下していた。(2) ヘレグリンβ1を投与したアポE欠損マウスの大動脈動脈硬化病変面積は、生食投与群の30%に抑制された。(3) ヒト単球由来マクロファージの泡沫化はヘレグリンβ1により40%抑制された。 【考察】ヘレグリンβ1の抗動脈硬化作用が実験的に証明された。急性冠症候群患者は血中ヘレグリンβ1濃度が低下しており、ヘレグリンβ1は冠動脈疾患のあらたなバイオマーカーとなる可能性が示唆された。 【結論】動脈硬化抑制作用を有するヘレグリンβ1は、冠動脈疾患のあらたなバイオマーカーとなることが期待される。
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