脱ヨード酵素はプレホルモンであるT4を活性型ホルモンであるT3に変換する酵素である。特に2型脱ヨード酵素(D2)は甲状腺ホルモンの標的臓器において細胞内T3濃度を維持していると考えられている。D2はT4によって蛋白レベルで制御される他、T3によって転写レベルで負の調節を受けるが、その分子機構は不明である。我々はこれまでの研究で以下の結果を得た。 (1)下垂体TSH産生細胞内には転写因子GATA2が存在し、転写因子Pit1と協調的に働いてTSHβ遺伝子の活性を維持している。D2遺伝子のプロモーター上にGATA2が結合し、その結合配列がcAMP応答領域の直下に存在することを同定した。D2遺伝子を組み込んだレポーターアッセイを行うと、D2遺伝子の転写活性はT3結合T3受容体により抑制された。これは内因性にGATA2を発現している絨毛癌由来JEG3細胞でも確認された。培養TSH産生細胞のTαT1細胞ではGATA2の発現が十分でなく、GATA2発現プラスミドを導入して初めてT3による負の調節が観察された。現在、内因性にGATA2を発現している下垂体由来LβT2細胞を用い、クロマチン免疫沈降法でin vivoにおける意義を追求している。 (2)心筋におけるD2は心筋細胞内のT3濃度維持に重要な役割を果たしていると予想される。また骨格筋のD2は蛋白リン酸化酵素A(PM)によって活性化され、インスリン抵抗性に関与すると考えられている。既報では転写因子GATA4とNkx2.5が心筋におけるD2転写活性を刺激するとされ、我々も腎臓由来CV1細胞で確認した。しかし培養心筋細胞H9c2では両者を発現させてもD2プロモーターの活性は得られず、むしろPKA刺激剤のforskolinで活性化が観察された。現在、培養骨格筋細胞C2C12でも検討を開始し、心筋および骨格筋におけるT3による負の調節機序を追求している。
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