研究概要 |
核内ステロイドホルモン受容体ファミリーの甲状腺ホルモン受容体(TR)及びペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)は,それぞれレチノイドX受容体(RXR)と2量体を形成し,標的遺伝子の上流にある特定の部位に結合し,当該リガンドに応答して転写を活性化する.各受容体には複数のアイソフォームが存在するが,その明確な役割分担は不明である.各受容体,各アイソフォームは,相互作用しうることから,組み合わせは膨大となり,標的遺伝子毎に極めて多様な作用を発揮していることが想定される.本研究では,これら受容体間,アイソフォーム間の複雑なクロストークを,我々が最近同定した新規TRアイソフォームも含め,主としてエネルギー代謝の観点から解明することが目的である.さらに,受容体アイソフォームをベイトとして,生薬などの中からアイソフォーム特異的リガンドを同定し,既存の薬剤の副作用を克服した新薬の開発に繋げる. 本年度は以下の成果を得た. 1.新規甲状腺ホルモン受容体アイソフォームβ4の細胞内局在に関する基礎的検討を行った. TRβ1のNLS1と2はいずれか一方で核への局在が行われること,TR4はC宋端が欠失しているがNLS1,2は保存されており核局在化シグナルとして機能していることが明らかとなった. 2.イルベサルタンによるPPARδ活性化の分子メカニズムの解析を行った. 変異PPARはリガンド結合様式や作用を解析する上で有用なツールとなり,新たなメタボサルタンの開発に役立つことを示した. 3.漢方薬構成生薬中のPPARsに対する有効成分の探索と効果評価を行った. 生薬成分CAはPPARγ,δに対してアゴニストとして作用し,抗糖尿病作用を発揮することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではすでに以下の成果を達成したため. 1.一部のARBがチアゾリジン誘導体とは異なった様式でPPARγ活性化作用を発揮することを示した(Endocrinology,2009). 2.TRとRXRや転写共役因子の結合性と転写活性の関係を明らかにした(J Mol Endocrinol,2009).3.新規甲状腺ホルモン受容体アイソフォームの基礎的・臨床的検討を行った(BBRC,2010,JCEM,2011).
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度であり,これまでに得られた研究成果の総括を行う.まとめるにあたって,さらに必要な追加実験を行う.特に,酸化ストレスや脂質・エネルギー代謝に関連した遺伝子群と核内受容体のクロストークによる転写調節機構の解析に重点をおく. 1.エネルギー代謝におけるTRとPPARsの相互作用とその分子メカニズムの解明 2.生薬などをターゲットとした新しい治療薬の発見 エネルギー代謝に関与する核内受容体と,UCP,SIRT,FOXO,βカテニン等とのクロストークをリアルタイムPCR法やルシフェラーゼアッセイ法を用いて解析する.生薬から見出した活性成分の作用点(標的遺伝子の発現調節や受容体アイソフォームとの選択的結合性,受容体結合部位の解析,転写共役因子の選択的なリクルート様式)を解析する。
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