研究課題
X染色体に異常を有する環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群症例の骨髄細胞を用いた検討から、X染色体のq13にコードされ、ミトコンドリアにおける鉄排出に関与するトランスポーターであるABCB7遺伝子の欠失がミトコンドリア内鉄沈着に関与する可能性を見出した。本症例ではisodicentric(X)(q13)の染色体異常を認め、ABCB7遺伝子のコードされている領域が欠失していることが疑われた。FISH法にて2本存在するX染色体のうち、活性化しているX染色体上でABCB7遺伝子が欠失していることを確認できた。また、実際にABCB7遺伝子mRNAの発現量を定量したところ、ミトコンドリア内に鉄沈着をきたさない他の血液疾患症例と比較し、本症例ではその発現量が減少していた。さらに、明らかな染色体異常を認めない環状鉄芽球を伴う骨髄異形成症候群症例の中に、ABCB7遺伝子mRNA発現量の低下を認める症例もみられ、成人の骨髄異形成症候群におけるミトコンドリア内鉄沈着にABCB7遺伝子異常が関与する可能性が示唆された。現在有効な治療法のない本疾患に対する治療標的となる可能性があり、今後さらに詳細に検討する必要があると考えられた。一方、赤芽球内における鉄沈着と造血障害の機序は明らかになっていないが、本疾患を含めた難治性造血障害症例に対する赤血球輸血療法に伴う鉄過剰治療としての除鉄療法後に、造血能の回復する症例の報告が相次ぎ、赤芽球内鉄沈着の造血能に対する影響が注目されている。現在、生体鉄代謝を調節するペプチドとして中心的な役割をはたしているヘプシジンと鉄による細胞障害の原因の一つとされている血清および細胞内自由鉄定量系を確立したので、今後、本遺伝子異常に伴う赤血球造血障害における鉄代謝異常の関与を明らかにする予定である。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
Int J Hematol.
巻: 93 ページ: 311-318
Int J Mol Med
巻: 27 ページ: 435-439