悪性リンパ腫患者のリンパ節標本約80例について、分裂期キナーゼの一種であるオーロラキナーゼBについてその発現を免疫組織学的に検討した。濾胞性リンパ腫やマントル細胞リンパ腫などの低悪性度リンパ腫ではその発現レベルや発現頻度は低く、一方、瀰漫性大細胞型リンパ腫やバーキットリンパ腫などの高悪性度リンパ腫細胞は高頻度に、かつ高いレベルでオーロラキナーゼBを発現していた。これら高悪性度リンパ腫細胞をオーロラキナーゼB特異的阻害剤に暴露するとその細胞増殖は抑制されアポトーシスによる細胞死が誘導された。カスパーゼ阻害剤で前処置後、リンパ腫細胞をオーロラキナーゼB阻害剤に暴露すると、細胞死は解除されたことから、オーロラキナーゼB阻害剤が誘導するアポトーシスはカスパーゼ依存的であることが明らかとなった。以上より、オーロラキナーゼBは高悪性度悪性リンパ腫の細胞増殖機構に関与しているものと考えられた。更に興味深いことに、既存の抗癌剤とオーロラキナーゼB阻害剤を併用すると相乗的に悪性リンパ腫細胞にアポトーシスを誘導することが可能であった。抗癌剤の暴露を受けた細胞では、JNKキナーゼの活性化を介してオーロラキナーゼBが更に活性化することが明らかとなった。これにより悪性リンパ腫細胞はよりオーロラキナーゼB阻害剤に感受性を獲得したと考えられる。予後不良な高悪性度悪性リンパ腫においては、オーロラキナーゼB阻害剤と抗癌剤の併用療法が有効であると思われ、臨床試験の開始が待たれる。
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