研究概要 |
今回我々は細胞周期を正に制御して細胞増殖を司っているjanus kinase 2(JAK2)キナーゼに注目して、その活性化と白血病化との関連について解析を行った。当院で診断した急性骨髄性白血病(AML)患者の診断時に採取した骨髄標本(n=77)を免疫組織学的に検索したところJAK2が高度に活性化(JAK2がリン酸化していると活性化していると判断)している症例が31例[40%]存在することが明らかとなった。興味深いことにJAK2が活性化している症例では診断時の白血球数が多く(52.3x103/L vs 28.3x103/L,p<0.01)、抗がん剤治療後の寛解達成率も低いことが明らかとなった(45% vs 78%,p<0.003).更に、多変量解析を行うとJAK2の活性化は患者生命予後不良因子であることが明らかとなった。(hazard ratio=2.213;95% confidence interval,1.212-4.041,p=0.023)(International J Cancer 2011 Jan 4 in press)。我々は次に、JAK2がAMLの治療標的分子となり得るか否かをin vitroで検討した。JAK2が活性化したAML患者から採取したAML細胞をJAK2阻害剤AZ960に暴露48時間後に細胞を回収、蛋白質を抽出してウエスタンブロット法で各種蛋白質発現レベルの変化を観察した。AZ460への暴露によりcaspase3の活性化が誘導され、AML細胞にアポトーシスによる細胞死がもたらされていることが明らかとなった。これらのAML細胞では抗アポトーシス分子Bcl-xLが高発現していたが、AZ960に暴露後は有意にBcl-xLの発現が抑制されていた。近年、AMLの再発の機序の一つとして白血病幹細胞(LSC)の存在が示唆されている。LSCは細胞表面抗原CD34+/CD38-のAML細胞分画に存在するとされている。そこで我々は同一患者のAML細胞からCD34+/CD38-とCD34+/CD38+の分画を純化し、それぞれにおけるJAK2の活性化状況をフローサイトメトリーとウエスタンブロット法を用いて検討した。興味深いことにJM2はCD34+/CD38-のLSCを含む分画でより活性化していた。これらの細胞集団もAZ960に暴露することでアポトーシスが誘導され、重要なことに、既存の抗がん剤による細胞死への感受性が増強した(International J Cancer 2010 Dec2 in press)。
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