メタボリック症候群の終末像は心筋梗塞や脳梗塞など重篤な血栓症であり、血栓症発症に至る分子メカニズムを明らかにすることによって、その予防および治療の進歩が期待される。Plasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)は局所における血栓溶解を強力に阻害することにより血栓傾向を強めるタンパクであり、血栓形成を主体とする種々の病態に関与するとされる。今回、メタボリック症候群のモデルマウスとして遺伝的肥満マウス(ob/obマウス)および糖尿病マウス(db/dbマウス)を用い、線溶阻害因子PAI-1の発現について解析を行った。4〜12週齢のob/obマウスおよびdb/dbマウスでは、対照マウスと比較して血漿中の活性型PAI-1値は約4〜7倍と高値であり、週齢を重ねるごとに高くなる傾向を示した。また、心臓、肺、肝臓、筋肉などの各組織においても、対照マウスの1.5〜2倍と有意なPAI-1 mRNAの発現増加を認めた。とりわけ種々の脂肪組織(内臓脂肪、皮下脂肪、精巣上体周囲の脂肪)では、単位RNA当たりのPAI-1 mRNA発現量が対照マウスの4〜5倍と顕著な発現増加を示していた。In situ hybridization法にてPAI-1遺伝子発現の組織内局在について検討してみると、ob/obマウスの脂肪組織におけるPAI-1 mRNAの発現は血管平滑筋細胞や血管内皮細胞において亢進していたが、特に大型化した脂肪細胞自体におけるPAI-1発現は顕著に増強していた。以上の結果より、の根幹を成す代謝異常を有する個体では、特に脂肪細胞の質的変化にともなってPAI-1遺伝子発現が亢進し、局所における血栓傾向を招来している可能性があると考えられた。
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