研究概要 |
1.脱分化脂肪細胞から生着促進細胞の誘導 ヒト脱分化脂肪細胞を、種々の分化誘導培地や1%低酸素条件下で培養し、培養上清中の発現サイトカインをプロテインアレイ法で測定した。その結果、脱分化脂肪細胞から造血幹細胞のホーミング能に重要なサイトカインであるSDF-1, PIGF, VEGF-Aが豊富に発現していること、これらのサイトカインの発現は低酸素条件下で培養することにより約2倍発現増加することなどが明らかになった。また脱分化脂肪細胞からRNAを抽出し、幹細胞維持に関与する遺伝子群の発現をリアルタイムRT-PCR法にて測定した。その結果、脱分化脂肪細胞にはアンギオポエチン1, Nカドヘリン、Jagged-1といった造血幹細胞の維持や分化に関与する遺伝子が発現していることが明らかになった。この結果は、脱分化脂肪細胞が造血幹細胞を維持するニッチ細胞としての機能を有する可能性を示唆している。 ヒト臍帯血造血幹細胞を増殖維持することができるマウスストローマ細胞(HESS5)に種々の線量の放射線照射を行い、発現するサイトカインの変化や、臍帯血CD34陽性細胞との共培養による造血幹細胞増殖維持能を評価した。その結果、低線量(0.1-1Gy)の放射線照射では、HESS5細胞からのSDF-1やJagged-1の発現が増加し、共培養による臍帯血CD34陽性細胞の増殖維持能が亢進することが明らかとなった。一方高線量(10Gy)の放射線照射では、HESS5細胞からのSDF-1やJagged-1の発現が著明に低下し、臍帯血CD34陽性細胞の増殖維持能が減弱することが明らかとなった。これらの検討により、HESS5細胞を高線量放射線照射することにより、造血微小環境のin vitro障害モデルとして利用できることが明らかになった。今後、この実験系を用いてヒト脱分化脂肪細胞が傷害された造血微小環境を修復補完する作用があるか明らかにしていく予定である。 2.脱分化脂肪細胞移植による骨髄微小環境再構築の検討 日本白色家ウサギに放射線照射を行い、骨髄組織を破壊した後、ウサギ皮下脂肪組織から調製した脱分化脂肪細胞を静脈内または大腿骨骨髄内に投与する予備検討を開始した。
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