我々は、成体C57BL/6マウス骨髄からFACSセルソーターを用いてc-kit^+Sca-1^+Lin^-(KSL)およびc-kit^-Sca-1^+Lin^-(K^-SL)分画を採取し、経静脈的移植法および骨髄腔内直接移植法を用いてレシピエントマウスに移植、造血幹細胞(HSC)の特質である長期骨髄再構築能を検討してきた。当初、致死量放射線照射マウスをレシピエントとして移植実験を行ったが、K^-SL細胞の骨髄生着効率の低さがデータ蓄積の障害となったため、致死量未満の照射量を用いる実験系の改善を図った、これにより、K^-SL細胞は一次移植マウスにおいては長期造血を示すことが明らかとなった。しかし二次移植マウスにおける長期造血を維持することはできず、厳密な意味においてKSL細胞中にHSCが存在することには否定的な結果となった。尤も更なる実験系の改善により、K^-SL細胞の長期骨髄再構築を認める可能性は残されている。 一方、上記の研究過程において、我々はKSL細胞集団とK^-SL細胞集団の中間に存在するc-kit^<low>Sca-1^+Lin^-(K^<low>SL)細胞に二次移植マウスを含めた移植レシピエントにおける長期骨髄再構築能が存在することを見出した。この細胞は、ストローマ非存在下に増殖し、増殖細胞はKSL細胞を培養した場合と近似の細胞表面抗原パターン(c-kit発現を含む)を示した。従って現時点における我々の結論は、移植実験系を用いる限りHSCは弱いながらもc-kitを発現する細胞であり、c-kitを高発現し得る細胞であると言うことである。K^<low>SL細胞からKSL細胞が産生され得ることは、インビボおよびインビトロにおいて示された。今後さらにこのK^<ow>SL細胞の特性を検討する予定である。なお研究の過程で、KSL細胞におけるCXCR4発現に関し、従来と異なる知見を得たため、誌上に報告した。
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