研究概要 |
本研究では平成20年度までにin vitroの実験系において,抗β2グリコプロテインI抗体が結合することによって単球における組織因子の発現が増強し,それが血漿の凝固を引き起こすこと,抗β2グリコプロテインI抗体によって活性化した単球は,炎症性サイトカインIL-1βやTNFαを産生することを確認した。また,IL-1βやTNFαの刺激を受けた血管内皮細胞は,CCL5やCX3CL1といったケモカインを産生するが,本研究ではこれらのケモカインが血小板の凝集能や粘着能を亢進させることも確認した。さらに,組織因子,IL-1β,TNFαの発現はいずれも,私たちが開発した新しい転写因子NF-κBの阻害薬DHMEQによって阻害できることを証明した。 これらの結果から,NF-κBを阻害することによって抗リン脂質抗体症候群における血栓形成傾向を抑制できる可能性が示唆されたが,平成21年度には,これをin vivoの実験系で確認するための動物モデルの作出に取り組んだ。まず,抗β2グリコプロテインI抗体を自然に産生するNZWxBXSB F1マウス脾細胞を用いて,モノクローナル抗β2グリコプロテインI抗体を作製することに成功した。つづいて正常のBALB/cマウスに皮膚の小血管を透見できるチェンバーを装着させ,レーザーを照射して血管内皮細胞に軽度の傷害を与えたところ,あらかじめモノクローナル抗β2グリコプロテインI抗体を投与しておいた場合にのみ,血栓が形成されることを観察できた。また,抗β2グリコプロテインI抗体の投与を受けた正常マウスでは,部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長が認められた。以上より,今回私たちが作出したモデルは,実際の抗リン脂質抗体症候群の病態と類似しており,今後の薬効評価などの実験に有用であると考えられる。
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