研究概要 |
従来TNF-αの作用としては、可溶型が重要であると考えられてきたが、近年その前駆体である膜型TNF-αの作用が注目されている。我々は膜型TNF-αがT-B細胞間の細胞接着による免疫応答に重要な分子であることを初めて明らかにしてきた。すなわち活性化T細胞上の膜型TNF-αはi)B細胞に接着して抗体産生を誘導し、ii)膜型TNF-αが刺激を受けることによりT細胞自身がある種の接着分子やサイトカインの産生を誘導する。本研究の目的は、膜型TNF-αとその受容体(TNF-α受容体)の二つの分子に着目して、それぞれについて機能解析、シグナル伝達機構を明らかにすることにある。 我々はTNF-α阻害薬の3製剤(抗体製剤であるインフリキシマブ、アダリムマブ、受容体と抗体Fc部分の融合タンパクであるエタネルセプト)について、膜型TNF-α産生細胞に対するADCC,CDC,そして我々が見出した新しい機能である内向きシグナルについて、head-to-headで効果の違いを比較検討した。その結果、インフリキシマブ、アダリムマブの抗体製剤は、融合タンパクであるエタネルセプトに比較してはるかに強力に膜型TNF-α産生細胞を抑制することが明らかになった。すなわち、インフリキシマブ、アダリムマブでは、ADCC,CDC,内向きシグナルの3つの経路のすべてを介して抑制するが、エタネルセプトはADCC活性のみ示した。さらに膜型TNF-α産生細胞がcell-to-cell contactを介してTNF-α受容体産生細胞に伝達する外向きシグナルについてこれら3製剤が抑制しうるかについて細胞障害活性を指標に検討した。その結果、10μg/ml以上の比較的高濃度では差がなかったものの、低濃度ではエンブレルが抗体製剤に比べて効果が弱いことが明らかになった。最後に、cDNAアレイによってインフリキシマブ投与によって膜型TNF-α産生細胞に細胞内シグナル伝達を惹起し、その結果発現が誘導されるもの、発現が抑制されるものについて解析を加えた。発現亢進するものは49個、抑制を受けるものは240個認め、さらに定量的RT-PCR,ウェスタンブロット法で確認した(論文準備中であるため詳細な発表は現時点では控える)。 これらの結果は、TNF-α阻害薬は抗体製剤であるインフリキシマブ、アダリムマブと融合タンパクであるエタネルセプトとは膜型TNFに対する作用が異なること、膜型TNF-αが肉芽腫性の炎症性疾患に関与することが近年報告されてきていることから、膜型TNF-αへの作用の違いがこれらTNF-α阻害薬の臨床効果の違いに関わっている可能性があることが明らかになった。
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