研究概要 |
近年、脂肪組織は単なるエネルギー蓄積という機能のみならず、さまざまな生理活性物質を分泌するホルモン臓器として機能している。これらは一般に、アディポサイトカインあるいはアディポカインと呼ばれている。関節リウマチ(RA)は、自己免疫異常を背景とした原因不明の慢性炎症性疾患だが、その病態形成に関わる炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子α、インターロイキン(IL)-1、IL-6などを標的とした生物学的製剤がRA患者で著効することが知られている。しかし、これらの最新治療にもかかわらず改善しない患者がなおも認められ、RAの全ての病態形成をこれらの炎症性サイトカインのみで説明することはできない。そこで申請者らは、アディポネクチン、レジスチン、レプチンなどのアディポサイトカインに注目し、倫理委員会の承認を得た実験計画でRA病態形成におけるこれらの意義を検討した。まず、RA患者における血清アディポサイトカイン濃度を検討したところ、アディポネクチンなどの血中濃度が増加していた。次に、ヒト滑膜細胞に対するアディポサイトカインの作用をin vitroで検討した。既に平成20年度の研究で、生理的血中濃度のアディポネクチンは、特異的受容体を介してヒト滑膜細胞のIL-8産生増加作用があることを見出した(Kitahara K, et al. Biochem Biophys Res Commun 2009 ; 378 : 218-223)。さらに平成21年度の研究で、アディポネクチンはヒト滑膜細胞のシクロオキシゲナーゼ-2と膜関連プロスタグランジンE合成酵素-1の発現増加を介してプロスタグランジンE2産生を増加させることを証明した(Kusunoki N, et al. Arthritis Rheum, Epub 2010 Mar 10)。これらの成績は、アディポネクチンは、少なくとも滑膜局所では炎症性サイトカインとして作用していることを示唆するものである。平成22年度は、これらの成績と臨床成績との関連をさらに検討する予定である。
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