市販のヒトFcεRIβ鎖に対する抗体は内在性のヒトのマスト細胞や好塩基球FcεRIβ鎖を捕らえることができず、この分野の研究が遅れていた。私たちは感度が高く、特異性の高い抗体作成に成功した。この抗体を用いて末梢血由来培養マスト細胞のFcεRIβ鎖とα鎖をFACSにて検討したところFcεRIαβγ2とαγ2の2つの別々のサブタイプが存在するのではなく、β鎖の発現の低い細胞から高い細胞が一つの集団で存在することがわかった。 我々はアレルギー疾患患者(アトピー性角結膜炎および春季角結膜炎)および健常人の結膜のマスト細胞のαβγ2とαγ2の発現比率を免疫組織化学染色によって調べたところ、アレルギー患者でマスト細胞数が増加しているのみならず、β+cells/α+cellsの比率はアレルギー疾患患者(0.69±0.08)で健常人(0.07±0.16)に比較して有意に増加していた。また、β+マスト細胞は上皮細胞周囲に局在していた。 ヒト末梢血由来培養マスト細胞にはリポフェクションではsiRNAが導入できなかったため、shRNAはレンチウイルスの系を用いた。VSV-G pseudotyped lentivirus vector encoding EGFPを用いてヒト末梢血由来培養マスト細胞への感染効率を確認した。また、ヒトマスト細胞腫セルラインLAD2にはリポフェクションでsiRNAが導入できたので、適切なsiRNAのシークエンスを選択した。刺激にはIgEの影響を考え、IgEを使わず、抗FcεRIα鎖モノクローナル抗体(CRA1)を用いた。脱顆粒の指標としてヒスタミンを用いた。炎症性サイトカイン産生能はMIP-1α、IL-8の産生をELISAで測定した。また細胞表面のFcεRIα鎖の発現への影響はFACSで検討した。FcεRIβ鎖mRNAをノックダウンすると、脱顆粒、サイトカイン産生、細胞表面のFcεRIα鎖の発現は抑制された。 In vivoのアレルギー炎症局所のアレルゲン濃度は極めて低いことが知られ、β鎖のシグナル増強効果がなければマスト細胞の活性化はほとんど起こらないことを示唆している。すなわち、マスト細胞β鎖はアレルギー疾患の治療の標的である。
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