Clostridium difficile (C. difficile)は、芽胞を有するグラム陽性の嫌気性菌で、病院内で発生する下痢症において、もっとも頻度の高い起炎菌である。現時点において、C. difficileが腸管へ定着する分子機序および腸管に定着しキャリア状態を維持する分子機序については、ほとんど不明のままである。 近年、C. difficileの細胞表面に存在するいくつかのタンパクが同定され、これらのタンパク(の一部)が、腸管への定着に重要な働きを演じているのではないかと推測されており、そのタンパクの一つにフラジェリンがある。3年間にわたる本研究の目的は、C. difficileの細胞表面タンパクのフラジェリンに特に焦点をあて、これが感染成立およびトレランスに果たす役割を明らかにすることである。 平成20年度は、主にC. difficileによる腸管上皮細胞の活性化にC. difficileフラジェリン・TLR5が関与しているかどうかに関するin vitroの系を用いた検証を行った。C. difficileフラジェリンを単離し、SDS-PAGE・CBB R-250染色で抽出を確認した。また本研究に用いる腸管上皮細胞系の樹立を行った。MDCKにフラジェリンのリガンドであるTLR5およびdominannt-negativeであるDN-TLR5(392stop)を安定発現させた細胞系の樹立したが、S.typhimuriumフラジェリン刺激によるIL-8産生が認められず、本系は今後の実験には使用できないことが判明した。かわりに、HT-29腸管細胞系およびHEK293T細胞を用いた検出システムを樹立した。 本研究に用いる細胞系を樹立したので、平成21年度以降は、C. difficileフラジェリンによる細胞の活性化・活性化制御の分子機序の解析を行う予定である。
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