Clostridium difficile(C.difficile)は、院内発症下痢症の最も頻度の高い起因菌である。しかし、C.difficile関連下痢症の発症に関し、固有の病原因子であるトキシン以外の分子機序は、殆ど不明である。一方、大腸上皮には、初期免疫を惹起し局所の炎症を導くToll-like receptor(TLR)のうちTLR5が多く発現しているが、TLR5は鞭毛の構成成分であるフラジェリンをリガンドとする。本研究の目的は、C.difficileのフラジェリンが感染成立に果たす役割を明らかにすることである。 平成22年までの研究により、C.difficileからフラジェリンを単離し、腸管細胞系のHT-29・Caco-2及びTLR5遺伝子を導入したHEK293T細胞を用いた検出システムを樹立した。本年度は、まず本システムを用い、C.difficileフラジェリン刺激によりTLR5を介して、NF-κBの活性化、炎症性サイトカインIL-8・CCL20産生亢進、MAPK(特にp38)活性化が導かれることを証明した。これらはC.difficileフラジェリンが局所炎症を導き、感染成立において重要な役割を担っている可能性を示唆した。次に、病原因子トキシンBを使用し、感染時のフラジェリンの働きについて検討した。トキシンB、フラジェリンを各々あるいは同時にCaco-2細胞に刺激し、IL-8・CCL20が各々の単独刺激よりも同時刺激で有意に多く産生されることを証明した。またトキシンB刺激は、Caco-2細胞でTLR5発現を亢進させることを証明した。トキシンB刺激によるTLR5発現亢進の結果、TLR5の反応性が増し、フラジェリン刺激に伴う炎症性サイトカイン産生が亢進したと予測され、これらの結果はC.difficile関連下痢症においてフラジェリンが病原因子として働いている可能性を高めるものであった。
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