研究概要 |
下気道感染症から分離される病原菌には絶対病原菌(absolute pathogen)と条件性病原菌(facultative pathogen)とに二分される。黄色ブドウ球菌は後者であり,分離培養を以って下気道感染の起炎菌と診断することはできない。本研究では,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が分離された患者cohortの記述疫学に基づき,起炎菌と判断する基準,即ち,抗菌薬治療を要すると臨床的に判断する診断アルゴリズムを作成した。 具体的には,(1)発熱,(2)末梢白血球数,(3)血清アルブミン値,(4)定量培養による菌数,(5)菌体貪食像の有無,の五項目により,Bayes解析を用いてMRSAが下気道検体から分離された患者のMRSA下気道感染症の診断確率を定量的に定める手法を確定した。 本定量的診断法は,日常感染対策におけるICTによる感染または定着の診断と良好に一致した(感染症学雑誌2010,84:276-284)。また,この診断確率定量値は,VCMによる抗菌化学療法のPKPDターゲット値(AUIC>400)と照合した治療経過とも一致し,抗菌薬開始基準のみならず,抗菌薬療法を中止する指標としても活用できる可能性について発表した(第58回日本化学療法学会総会:2010年6月,第1回MRSAフォーラム:2011年7月)。 平成22年度末の時点で,本診断法による診断確率定量値を実臨床における抗菌薬治療の要否に適用する臨床試験を本学医学部附属病院において企画中である。
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