拡張型心筋症のウイルス病因説は、拡張型心筋症の一部ではコクサッキーウイルスなどのエンテロウイルスが心筋で持続感染し、それによる心筋細胞障害がその機序と考えられることによる。エンテロウイルスは+鎖の一本鎖RNAウイルスであるが、細胞内で増殖する際に二本鎖RNAを形成し、細胞内の二本鎖RNAを認識するのはヘリカーゼ領域を持つ細胞質内タンパク質のRIG-1やMDA-5と考えられ、MDA-5はピコルナウイルスのみが誘導するとされる。MDA5欠損マウスはピコルナウイルス感染に対し易感染性である。拡張型心筋症患者のエンテロウイルス感染においてもこのMDA5が重要な因子と考えられる。我々はまず培養細胞にコクサッキーウイルスB3を感染させ、RIG-1とMDA-5のmRNA発現が亢進することを確認した。次にA/Jマウス雄にコクサッキーウイルスB3を腹腔内に接種し、心筋炎ならびに膵炎を惹起させた。そして心筋組織内における炎症性サイトカインIL-6、RIG-1とMDA-5のmRNA発現について検討した。マウスは全例で心筋炎を発症しIL-6、RIG-1とMDA-5はそれとともにmRNAの発現が亢進した。ウイルス接種21日目は心筋炎の回復期であり、心筋組織からのウイルス分離は行えなかったが、コクサッキーウイルスのゲノムはPCRによっては確認された。この時期、IL-6、RIG-1の発現も低下するがMDA-5の発現は持続する傾向であった。そこでMDA-5/RIG-1の比をとってみるとこの時期にも高いことが判明した。そこで拡張型心筋症患者心筋におけるIL-6、RIG-1とMDA-5の検討を開始した。限られた症例だがエンテロウイルス陽性心筋組織では陰性の組織に比較してMDA-5の発現が亢進し、さらにMDA-5/RIG-1比がその判定に有用である可能性が示された。
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