拡張型心筋症のウイルス病因説とはコクサッキーウイルスなどの心筋での持続感染により心筋障害が進行するという説である。その心筋障害にはウイルスの直接作用だけでなく、各種免疫の関与が大きいと考えられる。エンテロウイルスは+鎖の一本鎖RNAウイルスであるが、複製する際には二本鎖RNAを形成し、細胞内二本鎖RNAを認識するのがヘリカーゼ領域を持つ細胞内蛋白質のRIG-IやMDA-5であり、MDA-5はピコルナウイルスのみが、RIG-Iはインフルエンザウイルスなど他の一本鎖RNAウイルスが誘導するとされる。昨年度までに研究者らはコクサッキーウイルス感染マウスの心筋組織ならびに拡張型心筋症患者でエンテロウイルス陽性の心筋組織では、非感染組織と比較してMDA-5/RIG-I比が高く、MDA-5/RIG-I比がエンテロウイルス持続感染のマーカーである可能性を示した。本年度はインフルエンザウイルス感染マウスの肺組織においてMDA-5/RIG-I比が非感染組織に比して低下していることを示した。また心筋炎において炎症による血管内皮機能障害が重要で、RAS系薬がその治療に有効であることを確認し国内外の学会で発表した。今後心筋におけるコクサッキーウイルス感染とインフルエンザ感染の鑑別のためのMDA-5/RIG-I比の応用の検討ならびにその心筋障害機構について検討は続行していく。また血管内皮機能障害や心筋障害における低酸素ストレスの関与に注目し、間欠性低酸素モデル動物を作成し、低酸素による心筋リモデリングの証明、ならびに各種薬剤による治療効果について検討し、国際雑誌に報告した。これらの成果と臨床との対比のため、2009年のインフルエンザAH1N1(2009)pdmによるパンデミックに際し、インフルエンザ心筋炎の全国臨床観察研究を行った。人の心筋炎の報告は季節性インフルエンザでは稀である。今回のパンデミックにおいて15例の重症の心筋炎の報告が得られ、英文誌に発表した。体外循環を要する患者の救命率が80%と良好でこれには抗インフルエンザ薬の投与が関与した可能性が示された。
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