この年度でわれわれは眼球発生、中枢神経系の発生に重要な転写因子OTX2異常により下垂体一視床下部の形成障害、中枢神経系の発生異常がヒトでおこることを報告した。その異常は2塩基の挿入であり、変異蛋白はin vitroの解析の結果、HESX1プロモーター、POU1F1プロモーターの活性化能が野生型に比較し低下していた。これらの所見は下垂体前葉ホルモン欠損を引き起こすひとつの要因と考えられた。したがって、複合型下垂体前葉ホルモン欠損症において新たな成因を同定するとともに、今後無眼球症の患者において下垂体機能不全が存在し、患者の健康・生活の質の低下をきたしている可能性があり、今後さらなる検討が必要である。 下垂体発生に重要な転写因子LHX4の新たな変異も同定した。今回の変異(V101A)はLIMドメインに存在した。臨床的にはLHX4異常では下垂体低形成、トルコ鞍の形成不全が特徴とされてきたが、今回のわれわれの症例ではトルコ鞍の形成不全を認めず、その表現型が一様ではないことを示した。現在われわれが同定したLHX4の二つの変異(P366TとV101A)についてin vitroでの機能解析を行い、核内に移行することが可能であること、しかしPOUF1のプロモーターの活性化能を失っていることを確認した。LHX4と相互作用をする因子の同定を行い、変異との関連についてさらに検討を進めてゆく。LHX4は最近下垂体前葉細胞に分化しうる幹細胞(side populationに属する細胞群)に発現が認められることが示されている。したがってこの研究を進めることにより、下垂体前葉細胞発生のメカニズムの解明につながることが期待される。
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