研究課題
物質の遺伝的欠損が原因となる脳代謝性疾患の治療のためには、永続的に欠損物質を補填することが必要である。ライソゾーム酵素の場合は、ひとつの細胞で作られた酵素蛋白はその細胞にとどまって機能を発揮することができるだけでなく、分泌された結果他の細胞に取り込まれてそこで機能を発揮することもできる。このメカニズムに基づき、正常細胞を疾患モデルマウス(β-ガラクトシダーゼ・ノックアウトマウス)に移植することによる脳の治療実験を行ってきた。しかし、移植細胞の長期生存は困難で効果を持続させることができず、宿主の免疫応答が強く関与していることが推測されたことから、これを克服する治療方法を検討するため実験を行った。(1) β-ガラクトシダーゼ・トランスジェニック成マウス(2-6ヶ月)の大腿骨および脛骨より骨髄細胞を採取し、Gey solutionで赤血球を融解して有核細胞を集めドナー細胞とした。また、浮遊細胞を除いて培養面に付着増殖するものについて培養を継代し続け、安定して分裂増殖をする細胞を脳室内移植用細胞とした。(2) 生後2日齢のβ-ガラクトシダーゼ・ノックアウトマウスの脳室内に1.0x10^5個の骨髄間葉系幹細胞を移植した。(3) 脳内移植を施したβ-ガラクトシダーゼ・ノックアウトマウスの3週齢時に、放射線照射(850 cGy)を行い、24時間後に(1)で得た2-6×10^6個の有核骨髄細胞を尾静脈より注入した。(4)(3) のマウスを1カ月後に屠殺し、X-Gal染色を行って、脳内移植のみの同週齢β-ガラクトシダーゼ・ノックアウトマウスとX-Gal染色陽性細胞数を比較した。結果:移植細胞の生着期間はいずれも約60日であり、有意差を示すことはできなかった。実験個体数が少ないことと手技のばらつき、およびマウスの個体差に要因があると思われた。
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