研究概要 |
本研究の目的は以下の3点である。1.単一遺伝子病による先天性甲状腺機能低下症(以下CH)の頻度を明らかにする。2.多因子遺伝病、すなわち複数の遺伝子の相互作用(例えばdigenic変異;異なる2つの遺伝子の同時変異による発症)による遺伝性CHの存在の有無を明らかにする。および3.変異が証明された各遺伝子において変異遺伝子の機能を解明する。平成22年度は、特に3.に関して以下のように大きな成果を得た。3.(1)変異ペンドリン機能をin vitroで解明するため、ペンドリン細胞内局在を3種類の蛍光タグ融合タンパク質ベクターおよびCOS-7細胞を用いた発現実験により解析することに成功した。ペンドリンは代表的なCHであるペンドレッド症候群の責任遺伝子SLC26A4により産生され、細胞膜に局在する蛋白である。今回、日本人ペンドレッド症候群において2種類の変異ペンドリン(T527PおよびH723R)を同定した。2つの変異ペンドリンは細胞内で小胞体に存在し、細胞膜には局在しないことを証明した。以上の成果をAm J Med Genet 152A:2010,1793-1797.に発表した。3.(2)変異甲状腺ホルモン受容体ベータ(以下THRB)の機能を解明するため、THRBの3次元構造をprotein data bank ID 3GWS(http://www.rcsb.org/pdb)、the PyMOL Molecular Graphics System(http://www.pymol.org)、Deep View(http://spdbv.vital-it.ch/)およびPolyPhen(http://genetics.bwh.harvard.edu/pph/)を用いて解析することに成功した。THRBはCHの1亜型である甲状腺ホルモン不応症の責任遺伝子THRBにより産生される転写因子である。今回、日本人甲状腺ホルモン不応症において3種類の変異THRB(R320H,R383CおよびI431M)を同定した。これらの3つの変異THRBおよび過去に報告された10個の変異THRB(R243Q,R243W,M313T,A317T,R320C,R320L,R338W,R438W,P453SおよびP453T)の3次元構造の異常を明らかにした。以上の成果をClin Pediatr Endocrinol 19:2010.91-99.に発表した。
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