研究概要 |
ダウン症候群の一過性骨髄増殖性疾患(TMD)のほぼ全例で、転写因子GATA1の遺伝子変異を認める。いずれの変異も全長型のGATA1タンパクの発現を障害し、N末端を欠いた短いGATA1タンパク(GATA1s)のみの発現を引き起こすが、遺伝子変異は多彩である。66例のTMDについて、遺伝子変異のタイプと臨床像の関係を調べたところ、驚いたことに、GATA1sの発現が高いタイプ(n=40)では、発現が低いタイプ(n=26)に比べて有意に白血球数が多い(105,650vs39,000/μl,p=0.004)ことが明らかとなった。TMDの細胞増殖促進機構としては、JAKなどの細胞内シグナル伝達物質の活性化変異のみならず、GATA1sの発現量も重要な役割を果たしていることが示唆された。 ダウン症候群は、急性リンパ性白血病(DS-ALL)も一般の約20倍と高率に合併する。最近、DS-ALLの約20%においてJAK2の遺伝子変異が認められたとの報告があり、14例のDS-ALLについてJAK2とJAK3の遺伝子変異の検索を行ったが変異は認められなかった。次にJAK1について遺伝子変異の解析を行ったところ、1例で新規遺伝子変異L423Pを認めた。この変異遺伝子をBa/F3細胞に導入し、サイトカイン非依存性の細胞増殖を検討したが、活性化変異であることを示唆する結果は得られなかった。その後DS-ALLの約50%において、細胞増殖に関わるサイトカインレセプターCRLF2の高発現が認められ、その多くはP2RY8-CRLF2融合遺伝子の形成によるとの報告がなされた。そこで10例のDS-ALLについてP2RY8-CRLF2融合遺伝子の検索を行ったが、融合遺伝子を認めたのは1例のみであった。本邦におけるDS-ALLの発癌機構、細胞増殖機構は、欧米とは異なっている可能性が示唆された。
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