研究概要 |
重症複合免疫不全症の中で最も頻度の高いX連鎖重症複合免疫不全症は,サイトカインレセプターであるγc鎖の異常に起因し,T細胞とNK細胞の発生が障害されることが特徴である.我々は今年度の研究において,世界で2番目の報告例となるreversion(遺伝子変異の復帰)を有したX連鎖重症複合免疫不全症乳児例を見出し報告した(Wada T et al. Blood 2008.).患児はIL2RG遺伝子に変異IVS1+5G>Aを有し,スプライス異常により大部分のmRNAは早期翻訳停止となっていたが,一部に正常mRNAも作られており,γc鎖発現の低下した異常なT細胞とNK細胞が認められた.この異常T細胞の存在を背景に,患児では皮膚浸潤CD8^+T細胞にreversionが起こり,Omenn症候群様症状を呈していた.Revertantでは元の変異IVS1+5G>Aにより生じるcrypticなスプライス部位の近傍に第二変異IVS1+29G>Aが出現したために,正常なスプライシングが回復していた.本例の特徴として,復帰変異を有するT細胞が末梢血中では検出されず,皮膚にのみ認められたことがあげられる.おそらく感染や自己抗原などの局所の要因によりrevertantクローンが増殖したためと考えられた.このようにreversionによる体細胞モザイクは,原発性免疫不全症患者の臨床症状に複雑な変化をもたらし得ることが示された。一方、in vitroの実験として計画しているWiskott-Aldrich症候群(WAS)をモデルとしたreversionの誘導実験に関しては、WAS蛋白と薬剤耐性遺伝子であるNeoRの融合遺伝子を発現するベクターを構築中である。融合遺伝子はクローニングが終了し、発現ベクターに組み込む段階にあり、今後の進展が期待される。
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