X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)は、インターロイキン-2/-4/-7/-9/-15/-21の受容体として共用されるγc鎖の異常に起因する。T細胞とNK細胞の発生が障害されるため、末梢血に両細胞を欠くのが特徴である。以前、我々が報告した復帰変異(reversion)を有する非典型的X-SCID乳児例(Blood 2008)では、γc鎖遺伝子のスプライス異常のため一部正常mRNAが作られ、γc鎖発現の低下した異常な自己T細胞とNK細胞が認められた。これら異常細胞の存在を背景に、患児では皮膚浸潤T細胞に復帰変異が生じ体細胞モザイクとなっていた。今回、我々は、NK細胞を有する別の非典型的X-SCID症例を解析する機会を得た。キメラ解析により母親由来の細胞の混入は否定され、患児のNK細胞は自己由来と考えられた。顆粒球由来DNAを用いた解析では、exon5の先頭に1塩基欠損を認め、フレームシフトによる早期翻訳停止が予想された。そこでNK細胞を磁気ビーズにより分離し解析したが、同変異のみ認められ復帰変異は検出されなかった。mRNAを用いた解析より、患児にみられた1塩基欠損は単純なフレームシフトではなくスプライス異常を惹起し、余分な33塩基対を含む異常mRNAが作られることが判明した。原発性免疫不全症の患児が非典型的症状を示した場合、必ずしも復帰変異がみられるわけではないが、その頻度は予想以上に高いことが知られており、常にその存在に注意する必要があると考えられた。
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