研究概要 |
白血病症例から新規のキメラ遺伝子産物を同定した。症例はB前駆型急性リンパ性白血病の13歳男児で、染色体分析では46, XY, t (9 ; 12) (p24 ; p13), t (11 ; 12) (p15 ; p13)を認めた。t (9 ; 12) (p24 ; p13)からはETV6-JAK2キメラ遺伝子の形成が予想されたが、RT-PCRではキメラ転写産物は同定できず、FISH法でもETV6とJAK2のいずれのスプリットも確認できなかった。また、t (11 ; 12) (p15 ; p13)の11p15ではNUP98の関与が示唆されたが、こちらもFISHでスプリットは確認できなかった。そこで次に、Affymetrix社の高密度オリゴヌクレオチドアレイ(human mapping 250K Styアレイ)を用いて、ゲノムコピー数の変化を検討した。その結果、9番染色体上ではJAK2が存在する9p24には変化はなく、9p13のPAX5遺伝子の中でコピー数が変化していた。PSX5ではこれまでに多くの融合遺伝子が同定されており、そこで他のコピー数が変化している箇所について検討したところ、7q31に存在するFOXP2遺伝子の中でコピー数が変化していることを見出した。FOXP2のファミリー遺伝子であるFOXP1がPAX5と融合することが知られており、この症例のPAXの融合相手遺伝子はFOXP2ではないかと予想してRT-PCR行ったところ、両者のin-frameでの融合を確認できた。これまで同定されたPAXSの融合相手遺伝子には、構造や機能に共通のものはなく、今回初めて既知の融合相手遺伝子と関係の深い新規相手遺伝子を同定した。PAX5融合遺伝子の白血病化における役割はまだ不明であるが、共通の構造を持つ融合遺伝子が同定されたことにより、融合遺伝子の共通の機能の存在が示唆され、このような希少な症例の丁寧な解析が重要であると思われた。
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