今年度はin vitroで免疫寛容導入(Immune Tolerance Induction ; ITI)と同等の条件を構築し、トロンビン生成試験を用いてインヒビター存在下での止血効果発現に関する検討を行った。対象は同意を得られたインヒビター保有血友病A患者4例で、うち2例は第VIII因子H鎖44kDaフラグメントを認識し、残り2例はL鎖72kDaフラグメントを認識する抗体であった。まず、それぞれの患者血漿からプロテインAカラムを用いてインヒビターIgGを精製した後、第VIII因子欠乏血漿で希釈し、5 Bethesda単位/mlとなるように調整を行い合成インヒビター血漿を作成した。得られた合成インヒビター血漿に1および2単位/mlの遺伝子組換え型第VIII因子製剤を添加し、37℃で10、30、60、120分間、加温した後、トロンビノスコープでトロンビン生成能を測定した。トロンビン生成試験のパラメーターのうち、LTおよびETPはいずれのインヒビターIgGにおいても差はみられなかった。PHはC2ドメインを認識する抗体では時間経過とともに低下し、120分後にはほぼ消失する傾向が見られたのに対し、A2ドメインを認識する抗体では時間経過による減衰が少なく、120分後でもトロンビン生成能は十分に残存していた。TTpeakでは10、30分後の値に差はみられなかったが、60、120分後はC2ドメインを認識する抗体の方がA2ドメインを認識する抗体よりも延長する傾向が見られた。これらの結果は実際のITI療法中における第VIII因子活性発現の観察結果と合致するものであり、インヒビター認識部位によってITI療法中の定期輸注の出血予防効果に差がみられることを示唆するものである。
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