グルココルチコイド(GC)は生体内で合成されるステロイドホルモンであるが、一方で白血病細胞にアポトーシスと呼ばれる細胞死を誘導することから、化学療法剤の一つとして必須のものである。しかしながら細胞死誘導の分子機序は不明な点が多い。GCは転写因子であるGC受容体(GR)を介して主な生理機能を発揮する。我々はマイクロアレイ法を用いて複数のGRの標的遺伝子を同定している。GCによってアポトーシスがおきるヒト白血病細胞株Nalm6は、ターゲッティングベクターを用いて比較的容易に遺伝子のノックアウトが可能であることが知られている。本年度も引き続きNalm6細胞株を用いてGCの標的遺伝子のうちRCANIを相同組換えによりノックアウトすることを試みた。その結果昨年度作製済みのヘテロのノックアウト細胞に加えてホモのノックアウト細胞(-/-細胞)の作製に成功した。GCによるアポトーシスはRCAN1遺伝子のアレル数に依存しており、-/-細胞ではアポトーシスが著しく阻害された。一方でRCAN1を強制発現した細胞ではアポトーシスの増強が認められた。RCAN1遺伝子によるアポトーシス制御作用はGCによるものに特異的であり、TRAILにより誘導されるアポトーシスには影響を与えなかった。更にNalm6同様GCによりアポトーシスが誘導される697細胞を用いてsiRNAでRCAN1遺伝子の発現を抑制したところ、やはりGCによるアポトーシスは抑制された。以上のことより少なくともRCAN1はGCによる白血病細胞のアポトーシスを媒介する重要な分子であることが示された。
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