研究概要 |
ダウン症児における一過性骨髄増殖症(TMD)は新生児期に急性白血病様の血液異常を来すが無治療で自然治癒する特有な疾患で、20-30%の症例では4年以内に真の白血病を起こす。この疾患は胎児期の肝臓で発症する特殊な白血病または前白血病状態と考えられており、その自然治癒機構の仮説の一つとして、腫瘍細胞の増殖が骨髄ではなく胎児肝の造血微小環境に依存しているため、生後に造血の場が肝臓から骨髄造血へ移行した際に、腫瘍の増殖が維持できなくなる可能性が考えられている。本研究ではこの仮説を検証するため、胎児期の肝臓と骨髄の造血微小環境を構成する間質細胞を人工中絶胎児から採取し、これらの細胞の存在下でTMD芽球を共培養し、胎児肝および骨髄の間質細胞の造血維持機能を解析した。4例のTMD症例の芽球と2例の人工中絶児の間質細胞を用いて培養を行ったが、いずれの場合も胎児肝由来間質細胞の存在下でTMD芽球の増殖は有意に維持されたが、骨髄間質細胞にはこの機能は乏しいことが判明した。免疫染色にて間質細胞の性格を確認した結果、肝臓の間質細胞はvimentin(+), cytokeratin18(-), CD34(-)等から線維芽細胞と考えられ、骨髄の間質細胞はvimentin(+), CD10(+), CD34(-)などから骨髄の細網細胞として合致する所見であった。以上の結果より、TMD芽球の増殖維持には骨髄ではなく胎児肝の間質細胞の存在が重要であるがことが示され、TMDが胎児肝で発症する特殊な腫瘍であるという仮説が裏付けられた。ただし対照実験として成人の急性骨髄性白血病(AML)の芽球を用いて同様の実験を行った結果、AMLの芽球も同様に胎児肝間質細胞の存在下でより効率的に増殖が維持された。したがって胎児肝の微小環境の作用はTMD芽球に特異的とはいえず、生後の造血微小環境の変化がTMDの自然治癒に直接関与するものではないと考えられるが、この点はさらに詳細な解析にて確認が必要である。
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