乳幼児突然死症候群(Sudden Infant Death Syndrome : SIDS)はそれまで健康と思われていた乳幼児が多くは睡眠中に突然死亡する原因不明の疾患で、我が国では乳幼児の死亡原因の第3位に位置づけられており、その医学的社会的重要性はますます増加してきている。病態については睡眠中の覚醒反応の異常が示唆されている。今回の研究は申請者らがこれまでに明らかにしてきたSIDS症例における覚醒反応異常が自律神経系調整機能と関連しているかどうかについて検討を行った。 ブリュッセル自由大学附属小児病院にて睡眠中の終夜ポリグラフ検査をうけた乳幼児の中で検査後数日から数週間の間にSIDSを発症し死亡した症例16例と、これらの症例に対して年齢、性別などを一致させた正常コントロール例16例を抽出した。SIDS群とコントロール群において覚醒反応発現前の心拍数および覚醒反応発現中の心拍数の変動をSIDS群と正常コントロール群で比較検討するとともに非線形解析を用いて心拍変動解析を行った。 覚醒反応発現前の平均心拍数はSIDS群125.3、コントロール群121.5でSIDS群で有意に高かった。また覚醒反応発現中の心拍数の変動はSIDS群31.5、コントロール群33.3でSIDS群において変動が有意に少なかったが、皮質での覚醒反応発現中はREM睡眠期でSIDS群の心拍変動が少なく、皮質下の覚醒反応中はNREM睡眠期でSIDS群の変動が大きかった。 非線形解析を用いた心拍変動解析ではSIDS症例でRMSSDの増加とDFAα1の減少を認めた。RMSSDは各心拍毎の変動を、DFAα1は心拍変動に対する自律神経系および呼吸による変動を反映している。 今回の覚醒反応発現に関する心拍数変動の検討からSIDSの発症には自律神経系や呼吸循環調節の異常が関与している可能性が示唆された。
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