研究概要 |
母体血中に存在する有核赤血球を用いた胎児の遺伝子診断は、母体・胎児に無侵襲な理想的検査法である。我々は、レクチン法、自動有核赤血球識別装置、マイクロマニュピュレーション、 FISH法を用い、母体血からの有核赤血球分離、解析法を確立し、その診断精度を検討する目的で多施設臨床試験を行っており、その経過を報告する。 各施設の倫理委員会の承認のもと、妊娠15週以降の羊水染色体検査を行う妊婦を対象に、同意を得た上で母体血14mLを採取した。母体血から有核赤血球を1.095g/mL比重遠沈法、レクチン法で濃縮し、自動有核赤血球識別装置で同定した後、 Micromanipulation法で有核赤血球を単離し、 X, Y染色体、及び21番染色体特異的プローブでFISH解析を行い、羊水検査の結果と比較した。 80例の母体血で胎児性別を診断した。平均11.7mLの母体血中から、中央値で10細胞(最大-最小:1-98)の有核赤血球が同定され、9細胞(1-22)でFISH診断した。性別診断の正診率は74/80(92.5%)で、偽陽性1例、偽陰性5例であった。男児診断の精度は、感度86.8%,陽性的中率97.1%であった。21番染色体の解析は、53例で終了し、羊水検査で21-トリソミーであった4例(7.6%)は、全例21-トリソミーと診断された。偽陽性、偽陰性はなく、21-トリソミーの正診率は100%であった。男児妊娠例(n=34)で、合計275細胞の有核赤血球のFISH解析が行われ、121細胞(44.0%)が、胎児由来であった。 母体血中に存在する有核赤血球を用いて高い精度で胎児の染色体数の診断が可能なことを示した。この多施設研究を通じて無侵襲な胎児遺伝子診断法の精度が確認されれば、本法は臨床応用され、より安全な周産期医療の実現に寄与すると考えられる。
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