近年、腫瘍増大に伴う未熟な骨髄細胞集団が宿主免疫に影響することが注目され、それらはMyeloid-Derived Suppressor Cells(MDSCs)と呼ばれている。前年度までの研究において、1)腫瘍増大に伴うGr1^+CD11b^+未熟骨髄細胞集団はTh2型免疫反応によって誘導され易いこと、2)腫瘍における新規ケモカインCXCL17/DMC/VCC-1の過剰発現によってこれらGr1^+CD11b^+未熟骨髄細胞集団が腫瘍局所で増数し、腫瘍内血管新生と密接に関連することを報告した。今年度ではCXCL17の走化性因子としての役割に焦点を絞り研究をすすめた。Gr1^+CD11b^+未熟骨髄細胞集団は少なくともT細胞を欠損した免疫不全個体において顕著な増加が観察されるため、SCIDマウスの脾臓と骨髄細胞を用いた。その結果、CXCL17の容量に依存して応答する細胞の殆どはGr1^+CD11b^+陽性(92%)であり、百日咳毒素(PTX)によるGタンパク質の阻害やCXCL17の熱変成によってそれらの走化性は完全に阻害することができた。対照実験として、これまでMDSCsの走化性に重要とされているリガンドCCL2に反応する細胞集団とはその表現型も異なり、CXCL17応答細胞は好中球様の形態を示すことが判明した。マウスのGr1^+CD11b^+陽性細胞集団はヒトCXCL17にも同様に応答することも示された。これまでの解析では、CXCL17はヒト未熟樹状細胞に対して走化性を示すことが報告されてきた。今回、担がんマウスによる実験結果によって、Gr1^+CD11b^+未熟骨髄細胞集団がCXCL17陽性腫瘍に集積し、腫瘍の進展に寄与する構図が想像された。したがって、これの役割や治療学的意義を究明するために、がん微少環境における宿主細胞との相互作用について更なる研究が必要と考えられた。
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