落葉状天疱瘡は全身の皮膚に水疱をきたす自己免疫性の疾患である。自己抗体が標的抗原であるデスモグレイン1に結合してから水疱が発生するまでの詳細な機序はいまだ不明な点が多い。ヒト皮膚に水疱を起こすことができる抗デスモグレイン1モノクローナル抗体を皮膚器官培養に局所注入したあとに生じる変化を蛍光抗体法、電顕法、急速凍結固定・凍結置換法を用いた免疫電顕法により解析した。その結果非病原抗体注射においては細胞接着の障害はなかったのに対し、病原性抗体注射後2時間後にはデスモソームの減少が見られ、22時間後にはデスモソームの消失と細胞離開が見られた。免疫電顕法においては病原性抗体を注射2時間後にはデスモソームへの抗体結合は、非病原抗体を注射したときと比べてむしろ少なく、細胞質内に自己抗体の分布が見られた。これは、抗体結合後に隣り合うデスモソーム接着板の離開が起こり、その後にデスモソーム自体が消失する当初の予想と異なった。そこでデスモグレイン1の細胞外ドメインを特異的な切断酵素であるETAによる消化で除去した際に起こる変化を観察したところ、ETA消化1時間後には細胞表面からデスモグレイン1の細胞外ドメインは消失し、トノフィラメントを付着した、半割されたデスモソームが多数観察された。ひきつづいてデスモグレイン1の細胞内ドメイン、デスモコリンが細胞膜から消失することが観察された。以上からデスモグレイン1の細胞外ドメインが切断されることのみで棘融解を引きおこすことが可能であることが結論された。以上から、デスモソーム半割の経路と、消失の経路の両者が生体内では起こりうることが示唆され、実際の水疱形成にどちらがどの程度寄与しているかについて今後検討する余地が残された。
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