昨年度の研究の結果、培養表皮角化細胞からHD-rich画分を得るために最も適した条件を見つけ出し、培養法を確立した。最も適した条件はヒト角化表皮培養細胞株であるDJM-1をまず通常の血清含有培地で培養し、培養皿底面を完全に覆う状態になってから、インビトロジェン社から購入した無血清培地KGM中で約10日間培養する。この際、カルシウムは添加しない。このような条件下で培養した細胞の形成するヘミデスモソームの形態を透過型電子顕微鏡を使って観察したところ、通常培養条件下では認められないプラーク構造が観察され、質的にも成熟したヘミデスモソームが形成されていることが明らかとなった。HaCaT細胞を同様の条件で培養しても、HD成分を多く含む画分は得られなかった。この結果によって、初めてヒト培養細胞からHD構成タンパク質を豊富に含む画分を得る方法が確立された。また、確立した条件下で培養したDJM-1細胞のマトリックスにはプロセシングを受けていないラミニン332のα3鎖とY2鎖がメジャーな成分として含まれていた。プロセシングを受けていないα3鎖とY2鎖はラミニン332の蓄積と関係することが知られている。プロセシングが抑制されたためにラミニン332が蓄積し、その結果ヘミデスモソームが濃縮した可能性が考えられた。次に、DJM-1細胞から得られたHD-rich画分中のポリペプチドを一次元SDS-PAGEによって分離し、各バンドに含まれるポリペプチドを質量分析による解析した。その結果、これまでHD構成成分としては知られていない、AlixとBCAMの2種類のタンパク質が検出された。今後はこのAlixとBCAMがヘミデスモソームに局在しているのかどうかについてさらに詳細に検討する。
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