研究概要 |
最近、皮膚の上皮細胞がhuman β-defensin(hBD)とLL-37以外にPsoriasinやDermcidinなどの抗菌物質を産生することが報告された。これら抗菌物質が正常皮膚に発現し、さらに創傷、乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に関与していることは明らかになった。上記の抗菌物質においては、今までに使用されている抗生物質より抗菌範囲が広く、低濃度で作用を示すことが知られている。しかし、近年、これらの抗菌物質が免疫調節などの抗菌作用以外の機能を持つことがわかった。我々は平成20度中に、Dermcidin由来ペプチドDCD-1LやDCD-1がケラチノサイトのNF-κBを活性化し、さらに、G蛋白受容体やMAPキナーゼp38とERKの経路を介して、ケラチノサイトのサイトカインやケモカインの産生を誘導することが報告した(Br. J. Dermatol. 160 : 243-249, 2009)。今回の結果、ケラチノサイトにおけるDermcidin由来ペプチドのmRNA発現と蛋白発現を検討したが、これらペプチドがケラチノサイトに発現しないことがわかった。また、Dermcidinが創傷治癒に対する影響はほとんどないことが確認した(未発表結果)。現在、ケラチノサイトにDermcidinに対する受容体の有無を確認中。皮膚由来抗菌物質の更なる新免疫調節機能を検討するために、hBDとLL-37のヒトマスト細胞に対する作用を調べた。hBDとLL-37がin vitroやin vivoでヒトとラットマスト細胞からのIL-31などの数多くの痒み誘導因子の放出を増強することを見出した。また、乾癬やアトピー性皮膚炎由来皮膚マスト細胞がIL-31の蛋白を過剰に発現することが確認した(J. Immunol. 2009, in press)。 以上のことから、皮膚組織が産生する抗菌物質は体内で単に抗菌物質として働くだけでなく、皮膚の炎症反応と自然免疫に関与する可能性があると考えられる。
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