研究概要 |
皮膚には種々の抗菌物質が存在し、微生物感染から生体を守るために重要な働きをしている。これらの抗菌物質の中で、PsoriasinやDermcidinなどが注目され、乾癬やアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の病態に関与することが知られている。上記の抗菌物質においては、今までに使用されている抗生物質より抗菌範囲が広く、低濃度で作用を示すことが知られている。しかし、近年、皮膚由来抗菌物質が免疫調節などの抗菌作用以外の機能を持つことがわかった。我々は平成20~21年度中に、Dermcidin由来ペプチドDCD-1LやDCD-1がケラチノサイトのNF-κBを活性化し、さらに、G蛋白受容体やMAPキナーゼp38とERKの経路を介して、ケラチノサイトのサイトカィンやケモカィンの産生を誘導することが報告した(Br.J.Dermatol. 160:243-249,2009)。しかし、Dermcidin由来ペプチドがヒトケラチノサイトに発現しないことと創傷治癒に対する影響はほとんどないことがわかった。皮膚由来抗菌物質の更なる新免疫調節機能を検討するために、神経内分泌性の抗菌物質であるcatestatinのヒトマスト細胞に対する作用を調べた。その結果、catestatinがマスト細胞を脱顆粒させるだけでなく、脂質メディエーター、サイトカィンやケモカィンの産生を惹起することがわかった。さらに、catestatinはマスト細胞に遊走作用も有することが明らかとなった。catestatinによるマスト細胞の活性化をGタンパク質、ボスホリパーゼCとMAPキナーゼの経路を介して、マスト細胞に作用することが明らかとなった(Immunology 2011, PMID : 21214543)。 これらの結果は、皮膚の障害によって放出されるcatestatinを介したヒトのマスト細胞活性化機構が神経-免疫相互作用による皮膚のアレルギー疾患の病態の形成に新たに関与する可能性を示唆するものである。
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