研究概要 |
これまでに我々は成体ラットの海馬歯状回から神経幹細胞/神経前駆細胞(ADP)を単離することに世界に先駆けて成功しており、今年度はこの細胞を用いて以下の研究成果を挙げている。 1. 抗うつ薬並びにモノアミンの直接作用とその作用機序 現在臨床で使用されている抗うつ薬並びに抗うつ効果に最も関与していると考えられているモノアミンであるセロトニン、ノルアドレナリンのADPに対する増殖作用をin vitroで検討した。その結果、検討した抗うつ薬(SSRI, SNRI, 三環系抗うつ薬など)の総てに増殖作用は認められなかった。また、セロトニンにも直接効果は見られなかった。一方、ノルアドレナリンは用量依存的に増殖を促進し、その作用はADPに発現しているβ2受容体を介することが明らかとなった。 2. リチウム(Li)の直接作用とその作用機序 気分障害の治療に用いられているリチウムのADPに対する増殖作用をin vitroで検討した。その結果、Li単独では増殖作用を示さなかった。一方、グルココルチコイド受容体のアゴニストであるデキサメサゾン(DEX)ははADPの増殖を抑制した。そして、その抑制効果はリチウムにより阻害された。この阻害作用はβ-atenin/TCF pathwayの阻害薬であるquercetinで阻害された。そしてDEXとLiにより核内β-catenin量とcycline D1発現量は細胞数の増加と平行して動き、相互に影響し合っていた。さらに、DEXはβ-cateninの核内移行を阻害するGSK-3βのTyr^<216>のリン酸化を増強することを明らかにした。 これらの結果は海馬における神経細胞新生に対する薬物の直接作用を明らかにしたばかりか、ストレスホルモンであるグルココルチコイドとの相互作用から薬物効果を考えた新たな視点を示したと思われる。
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