研究概要 |
抗うつ薬の作川機序として海馬における神経細胞の増加が重要であると考えられてきている。本年度私たちは神経紬胞を増加させるカスケードとして1)ドパミンの直接効果、2)カルモジュリンキナーゼIV(CaMKIV)を介する間接効果を検討した。1)ドパミンの直接効果:当研究室では成体ラット海馬歯状回山来神経幹・前駆細胞(ADPs)の培養法を確立している。ドパミン受容体刺激薬であるプランペキソールなどが、臨床的に一部のうつ病患者に有効であるという所見が報告されており、ドパミンのADPsに対する効果を検討した。その結果(1)ドパミンによりADPsの増殖が促進されること、(2)増殖作用はD1-like受容体を介して起こること、(3)レチノイン酸誘導のADPsの分化に対してニューロンへ細胞運命決定が促進されることを明らかにした。2)CaMKIVを介する間接効果:シナプス間隙においてセロトニン、ノルアドレナリンを増加させる従来の抗うつ薬の慢性投与は各受容体を介して、海馬顆粒細胞内のcAMP-CREBカスケード活性化し、その下流に想定されているFGF-2,BDNFなどの神経栄養因子が神経細胞を増加させると考えられている。神経系において細胞内カルシウム濃度の上昇は、カルシウム/カルモジュリンが結合し、Ser/Thr部位のリン酸化によりその活動性が変化するCaMKにより、多くの細胞内反応が引き起こされる。中でもCREBを直接リン酸化するCaMKIVは注目される物質である。本年度私たちはCaMKIVノックアウトマウスを使用し、CaMKIVの抗うつ作用における役割を検討した。その結果(1)CaMKIVノックアウトマウスに抗うつ薬を慢性投与しても神経細胞新生は促進されない、(2)CREBのリン酸化が減少することを明らかとした。これらの知識は新規抗うつ薬を創薬するさいの一助になると思われる。
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