ヒストン蛋白のアセチル化による修飾は、遺伝子発現の調節を介して、神経発達に重要な役割を担うだけでなく、中枢神経の成熟後も細胞の機能調節にも深く関与している。 当年度は、ヒストン修飾による遺伝子発現調節メカニズムの対象として、最も多面的に解析が進んでいる甲状腺ホルモン受容体(thyroid hormone receptor : TR)を取り上げて、遺伝子改変モデルの中枢神経、特に辺縁系神経核群について検討した。 TRは、大きくTRα、TRβに分けられており、脳ではTRαは室傍核に豊富に発現し、TRβは脳に広範囲に分布している。また、中脳・辺縁系はてんかんに関与するだけでなく、学習、情動、報酬系に関連して古くから研究されてきた部位であり、帯状回、側坐核、線条体、視床、海馬、扁桃体、嗅球といった部位は機能的につながっていると考えられており、パペッツ回路やヤコブレフ回路といった古典的回路網としてもよく知られている。 今回、遺伝子改変モデルで、これらの部位を検討したところ、TRβについて側坐核を中心に異常が認められた。この部位は報酬系としてA10からのドーパミン系投射やドーパミンを制御する役割を持つとされるセロトニン系投射を密に受ける部位である。 今後、その部位における機能異常とヒストンジアセチラーゼの役割の解明を試みる。一方、大きく3群に分かれるヒストンジアセチラーゼについて、関与するタイプの同定を試みて、薬物による操作の可能性を探る。
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