本研究では、「ストレス適応破綻状態からうつ状態を呈し、脳内において神経可塑性が障害される」「母親の養育行動が神経可塑性に影響を与え、ストレス脆弱性に関与する」という「うつ病のストレス脆弱性・神経可塑性障害仮説」を、モデル動物を用いて検証することを目的としている。平成21年度は、モデル動物として我々がこれまでに見出した生来的にストレス脆弱性を有する純系のFischer 344 (F344)ラット(後述)を用いて、軽度のストレス負荷で引き起こされるストレス破綻状態(うつ病態モデル)における神経可塑性障害ならびにその障害に対する養育行動の影響を統合的に検討した。その結果、F344ラットは慢性ストレス負荷に対して視床下部室傍核における神経可塑性マーカー遺伝子であるc-fos mRNAおよびリン酸化型CREB発現量が非ストレス群に比べて有意に増大していた。さらに海馬歯状回における増殖細胞数を免疫染色法とウェスタンブロット法を用いて検討したところ、慢性ストレス負荷後のF344ラットにおける増殖細胞数は非ストレス群に比べて有意に低下していた。さらに、cross-fostering実験の結果から、F344ラットにおけるストレス脆弱性の形成は、母親の養育行動に起因していることが示唆された。
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