本研究では、「ストレス適応破綻状態からうつ状態を呈し、脳内において神経可塑性が障害される」「母親の養育行動が神経可塑性に影響を与え、ストレス脆弱性に関与する」という「うつ病のストレス脆弱性・神経可塑性障害仮説」を、モデル動物を用いて検証することを目的としている。モデル動物として我々がこれまでに見出した生来的にストレス脆弱性を有する純系のFischer344(F344)ラットを用いて、軽度のストレス負荷で引き起こされるストレス破綻状態(うつ病態モデル)における神経可塑性障害ならびにその障害に対する養育行動の影響を統合的に検討した。その結果、SDラットにF344ラットを養育させた場合に、本来みられるストレス脆弱性が消失したことから、F344ラットにおけるストレス脆弱性の形成は、母親の養育行動に起因していることが示唆された。また、母仔分離ストレス負荷によって前頭前野領域における神経可塑性関連遺伝子群の発現に変化が認められた。さらに、これらの遺伝子発現制御に関与している因子としてREST4を同定し、REST4を脳内に過剰発現させたマウスでは成獣になってからの慢性ストレスに適応できない、つまりストレス脆弱性の亢進が認められた。以上の結果から、REST4の機能異常による神経可塑性異常がうつのリスクファクターとなり得る可能性が示唆された。 本研究により、脳発達段階における遺伝子発現制御ネットワークの異常がその後のストレス脆弱性を決定している重要な因子の1であることが示唆された。
|