本研究は、うつ病患者の薬物治療を個人ベースで最適化する目的で、磁気共鳴撮像装置(MRI)による画像検査を主体とした検査プロトコルの確立を目指すものである。ここでの「治療最適化」とは、診療の初期段階で病態把握のための検査バッテリーを実施し、その結果を元に治療方針を定め、患者ごとに奏功する薬物の種別・用量設定までの期間を可能な限り短縮することを意味する。研究期間(5年)の前半で患者の病態把握と治療反応性を予測するのに適した検査の確立を行い、後半でその有効性を評価するための前方視的研究を実施する。本年度はその3年目として、前年度までに確立された機能的MRI (fMRI)検査用・認知課題を、より多くのうつ病患者と、年齢・性別などをマッチさせた健常者に実施した。特に心の理論(Theory of Mind)に関連した自己参照課題を遂行している間の脳活動について検討が重点的に進められ、主要脳部位(内側前頭前皮質・帯状回・扁桃体など)における活動性と、Hamiltonうつ尺度など臨床評価尺度との関連性(患者群)、ならびにTemperament and Character Inventory (TCI ; Cloninger et al.1994)などで測られる個人の性格傾向などとの関連性(患者群・健常対照群双方)について解析が行われた。結果、当該認知課題遂行中の前頭前野における賦活は、うつ病患者の病状を反映するstate-dependentなマーカーとして使用できる可能性が示唆された。来年度以降、さらに多くの症例を通して当該課題の有用性について検討を行う予定である。
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