本研究では、うつ病(気分障害)患者の治療計画を個人ベースで最適化することを目的に、画像検査を主体とした検査プロトコルを確立するための検討が行われた。ここでの「治療最適化」とは、治療の初期段階において患者の状態が客観的に把握できるような検査バッテリーを構成し、そこで得られる結果を考慮に入れながら治療方針を定め、患者ごとに奏効する治療方法(薬物療法・認知行動療法など)が見出されるまでの期間を可能な限り短縮させることを意味する。気分障害に関連した脳神経ネットワークの活動異常を評価する目的で、複数の機能的磁気共鳴撮像法(functional MRI; fMRI)検査用認知課題(情動課題・前頭葉機能課題・自己参照課題など)が開発され、研究期間中、主に大うつ病患者群と健常群の間での活動性の異同が検討された。当該年度は、特に自己参照課題遂行中の脳活動について検討が進められ、気分障害の神経基盤を理解する上での有用性が検討された。自己参照課題とは、特定の場面において取られる適応的ないし非適応的な行動が文章呈示され、それが自分自身にも起こりうるか(SELF条件)、そのような行動を取る者は他にもいるか(OTHER条件)を判定するものである。同課題遂行中の脳活動をfMRIにて撮像した後、OTHER条件に比べSELF条件で賦活する脳部位を検索したところ、特に内側前頭前皮質(medial prefrontal cortex)において2群の活動性が乖離することが示された。同課題を認知行動療法が適用されているうつ病患者に対して縦断的に実施したところ、うつ病尺度で測られる症状評価と、同部位の活動性との間には相関関係が認められた。このことから、fMRI検査にて計測される同課題遂行時の内側前頭前皮質における活動性は、気分障害のバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。
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