統合失調症の薬物治療の主流は錐体外路症状を発現しにくい第2世代抗精神病薬(SGA)である。本邦ではSGAの登場後も、抗コリン薬の併用率が欧米と比較して極めて高い。そのため本邦の患者の多くは、疾患本来の認知機能障害に加えて、薬原性の認知機能障害が加わりQuality of Life(QOL)が低下している可能性がある。本研究では、SGAに長期併用された抗コリン薬を前向きに減量中止し、認知機能やQOLに及ぼす影響を検討した。対象は、SGAの単剤治療を受け、抗コリン薬を3ヶ月以上継続して併用中の統合失調症患者である。抗コリン薬は、SGAの用量を固定したままbiperiden換算で1mg/2~4週の速度で減量した。臨床評価は簡易統合失調症認知機能評価尺度日本語版(BACS-J)、統合失調症の生活の質評価尺度日本語版(SQLS-J)、PANSS、CGI-S、DIEPSSを用い、試験開始時と抗コリン薬減量中止から4週後の計2回実施した。平成21年度は、計27例がエントリーし、26例は重篤な離脱症状の出現もなく抗コリン薬の減量中止が可能であり、BACS-Jの注意と情報処理速度、言語流暢性、遂行機能、総合得点の有意な改善を認めた。また、SQLS-Jの心理社会関係、PANSSの総合精神病理得点およびCGI-Sも有意に改善し、DIEPSS得点は有意な変化を認めなかった。さらに、抗コリン薬の減量中止を行わない患者対照群にBACS-Jを2回施行し、学習効果の影響について検討した結果、注意と情報処理速度と総合得点の改善度は学習効果を上まわった。以上より、SGAに長期併用された抗コリン薬は、緩徐に減量中止すると、精神症状の悪化や著明な有害事象を認めずに一部の認知機能やQOLが改善する可能性が示唆された。本研究により、抗コリン薬の安全な減量法とその臨床的意義に関する新しいエビデンスを提供できると考える。
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