プロテオミクス手法を用いて同定した抗うつ薬結合蛋白質の一つが、dynamin Iであった。Dynaminは細胞膜に存在し、トランスポターを介して、シナプス間隙の神経伝達物質を再吸収し、シナプス小胞の形成に関与する96kDa GTPaseである。Dynamin Iは脳にのみ存在している。また、プレシナプスでの神経伝達物質分泌に関与している重要な蛋白質であることが、近年の研究で証明された。Dynamin Iは開口分泌時のカルシウムのセンサーの働きをしていることが知られている。 このdynamin IのGTPase活性と抗うつ薬であるSSRIなど向精神病薬との関係を検討した。dynamin IのGTPase活性をSSRIであるサートラリン、フルボキサミンが著明に抑制することが判明し報告した。フルボキサミンのdynamin Iに対するGTPase活性阻害は、GTPに対しては非競合的阻害であるのに対して、L-phosphatidylserine(PS)に対しては、競合的阻害を示した。一方、サートラリンはGTP、PSに対して混合的阻害を示した。サートラリンはdynamin Iだけでなくdynamin2のGTPase活性の阻害も認めた。Dynaminは開口分泌に関与しているだけでなく、transferinのエンドサイトーシスに関与していることが判明した。dynamin I K44AはGTPase活性サイトの変異であり、この部位にはGTP結合部位がある。dynamin I K44A変異により、エンドサイトーシスが抑制された。また、サートラリンはdynamin Iのエンドサイトーシスを阻害したが、サートラリンの阻害機序はdynamin I K44Aによる機序とは別であることが判明した。
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