脳内セロトニンは気分、感情、衝動性、食行動、睡眠などの様々な精神機能に重要な役割を果たしており、気分障害を初めとした精神疾患の病態に密接に関与していることが示唆されている。また、セロトニン神経系は抗うつ薬や抗不安薬の作用点でもあり、これらの向精神薬の作用機序の解明にも人間を対象とした研究が望まれる。そこで、ヒト生体における脳内セロトニン神経系の解剖学的および機能的局在を検討するために、Positron Emission Tomography(PET)を用いてセロトニン神経に関する統合的なデータベースを作成した。健常男性を対象に、同一個人においてセロトニン・トランスポーター(5HTT)測定用放射性リガンド[11C]DASBおよびセロトニン1A(5HT1A)受容体測定用放射性リガンド[11C]WAY-100635によるPET検査を施行した。個々の被験者のPET画像データを、statistical parametric mapping法を用いて、各個人のmagnetic resonance imaging(MRI)形態画像を参照して解剖学的標準化を行った。次に、小脳を参照領域として5HTTおよび5HT1A受容体の結合能(BPnd)をそれぞれ計算し、パラメトリック画像を作成した。その結果、5HTTのBPndは線条体、縫線核、視床で相対的に高く、大脳皮質、辺縁系で低かった。一方、5HT1A受容体のBPndは海馬で相対的に最も高く、前部帯状回、大脳皮質、縫線核、線条体で中等度であり、視床で低かった。これらは過去の死後脳研究での分布と一致していた。今後これらのPET画像データと種々の認知機能との関連を検討することにより、人間の脳内セロトニン神経系に関する統合的な理解が得られるものと期待される。
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