研究概要 |
統合失調症は生涯罹患率が約1%と高く、国内患者数は75万人にのぼり、うつ病とならぶ精神科の代表的疾患である。しかしながら、原因は不明であり根本的治療法がないのが現状である。我々は、カルボニル化合物によって修飾を受けた糖化終末産物(AGE)が顕著に上昇し、「カルボニルストレス状態」を呈する統合失調症の患者が一部に存在することを明らかにした。また、統合失調症患者のAGE上昇群では、カルボニル代謝系の律速酵素であるGlyoxalase遺伝子にフレームシフト変異あるいはミスセンス変異のホモ接合体をもつ頻度がAGE正常群に比べて有意に高いことを見出した[P=0.03,OR:5.09(95%CI:1.10-23.49]。この結果は、遺伝子変異によって先天的に酵素活性が減少したことで生じたカルボニルストレスが、統合失調症の病態と関連する可能性を示唆した。さらに、カルボニルストレス消去作用が強いビタミンB6誘導体が、カルボニルストレスを取り除く点において、従来の薬物療法と大きく異なる治療法となる可能性を見出した。さらに、健常者の遺伝子解析を実施した結果、変異をもつ健常者も複数例同定されたが、AGEレベルはすべて正常範囲内であった。この所見は、健常者での代償システムの存在を示唆し、非発症の遺伝子変異保持者を研究することにより、発症の抑制的側面を明らかにできる可能性があると考えられた。
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