統合失調症は、気分障害と並ぶ精神科を代表する二大精神疾患である。生涯罹患率が1%と高く、高血圧、糖尿病などと同様に「ありふれた病気(common disease)」と呼ばれる。厚生労働省による平成20年患者調査によれば、傷病分類別の入院患者数で実に22%が精神及び行動の障害に該当する。したがって、統合失調症の早期診断に役立つ生物学的指標の同定、原因解明と有効な治療法・予防法の開発は、精神科医療における最も優先されるべき課題である。 生体内においてAdvanced glycation end products(AGEs)が蓄積する状態は「カルボニルストレス」と提唱されている。これまでにペントシジンやカルボキシメチルリジンなど多くのAGEs構造体が同定されており、その生成過程や各種疾患における体内動態とその生理的意義が内科系疾患を中心に研究がなされている。本研究で我々は、一部の統合失調症患者がカルボニルストレスを呈することを初めて明らかにした。45名の統合失調症の血漿成分中のAGEsを定量した結果、21例(46.7%)においてAGEs上昇が認められた。統合失調症患者のAGEs値(平均値:68.4ng/ml)は、健常者(平均値:39.6ng/ml)の約1.7倍にまで達していた。特に、AGEsレベルが130ng/ml以上と顕著な上昇を示した統合失調症3例は、いずれもが重篤な精神症状を呈し、10~33年にわたり長期入院している治療抵抗性の症例であった。また、これらカルボニルストレス性統合失調症患者の多くからGLO1遺伝子変異が同定されたことから、GLO1の遺伝的機能的低下がカルボニルストレスに寄与することが示唆された。したがって、GLO1遺伝子変異を有する先天性のカルボニルストレス性統合失調症患者は、生化学的所見や遺伝子型による診断が行えると考えられ、抗カルボニルストレス薬剤等は、カルボニルストレス性統合失調症の病態に根ざした治療薬となりうる可能性が示唆された。
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