およそ2割の統合失調症の病態にカルボニルストレスが関与することを独自に発見し、これらの症例でカルボニルスカベンジャーであるビタミンB6投与が有効である可能性を報告してきた。本研究では、カルボニルストレス代謝制御の分子メカニズムを明らかにするため、各症例の生化学的要因についてプロファイリングし、統合失調症の異種性回避に応用可能なバイオマーカーの探索と同定をねらいとした。グリオキサラーゼ代謝と相互に関連する代謝ネットワーク分子群の生化学プロファイルから、主成分分析を行った結果、終末糖化産物の消去系として機能することが知られるesRAGEがカルボニルストレス性統合失調症の主成分因子として抽出された。統合失調症105名、健常者81名についてesRAGEを定量したところ、患者群の約34%にesRAGE低下が認められた。一方、健常者群でのesRAGE低下は約14%であった。また、esRAGEの低下は、GL01変異型の症例に比べて野生型の症例において顕著であった。さらに、esRAGE低下を認めた症例での遺伝子変異を疑い、esRAGEをコードするAGERに関してリシーケンスを実施した結果、esRAGEの発現と関連するvariantsを同定した。本研究によって、およそ15%の統合失調症にペントシジン蓄積・ビタミンB6低下・esRAGE低下を認め、その遺伝的要因として、GL01とAGER変異が関連することを明らかにした。本研究によって、esRAGEレベルおよびAGER遺伝子型による統合失調症の検出法及び診断法、並びにesRAGEの補充等による治療法の新たな開発が期待できることが示唆された。今回、新たなバイオマーカーを同定したことによって、より均一な個別病態をクラスタリングすることが可能となり、統合失調症の異種性に対応した個別化医療への応用も期待できると考えられた。
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