研究概要 |
抑うつ症状が寛解に達した大うつ病性障害(MDD)患者64例と健常対照者52例において認知機能の比較検討を行った。患者群のGlobal Assessment of Functioning (GAF)は平均62.9であった。認知機能検査は、実行機能としてWisconsin Card Sorting Test(WCST)、言語流暢性としてWord Fluenct Test(WFT)、視覚処理および運動速度としてTrail Making Test(TMT)、反応抑制および選択的注意としてStroop Test、注意保持および運動速度としてContinuous Performance Test(CPT)、近時・即時短期記憶としてAuditory Verbal Learning Test(AVLT)を施行した。その結果、WCST、WFT、TMT、AVLTにおいて、MDD群が健常群に比して有意に成績が悪かった。次に、上記64例のうち、抗うつ薬がSSRIのみの10例と、三環系抗うつ薬のみの11例について、認知機能を比較検討した。両群の患者背景については、年齢、性別、治療環境、教育年数、発症年齢、罹病期間、エピソード回数、気分障害の遺伝歴、抗うつ薬用量(Imipramine換算量)、その他の併用薬用量、抑うつ症状の重症度(Clinical Global Impression, Self-monitoring Depression Scale)、社会機能(GAF)のいずれについても有意差はみられていない。認知機能の比較では、AVLTの遅延再生においてのみ、三環系抗うつ薬群で有意に低い成績が認められた。以上の結果より、抑うつ症状が寛解に至ったMDD患者においても広範な領域に渡る認知機能障害が残存していること、SSRI治療群よりも三環系抗うつ薬治療群で近時記憶の障害がみられやすいことが示唆された。
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