わが国では諸外国に先立って2005年に人口高齢化率が20%を超え、認知症対策の重要性が益々クローズアップされている。認知症の原因疾患の中でも大きな比率を占め、特に加齢との関連が深いアルツハイマー病(Alzheimer's disease; AD)の原因究明ならびに治療・予防法開発は、老年精神医学の最も重要な課題のひとつである。加齢によって生体に出現する種々の退行性変化が酸化ストレス(oxidative stress; OS)と関連することは、以前から多数の研究によって支持されているが、近年、ADの病態にもOSが密接に関連することを示唆する研究成果が集積されてきた。本研究では、対照例、preclinical AD例(脳にAD病理変化はあるが認知機能障害は呈さなかった例)、最軽度AD例、および軽度AD例の4群から採取した剖検脳を用いてADの発症前後の脳の酸化傷害レベルの変化について検討し、脳の酸化傷害と認知機能障害発現との関連性、および、脳の酸化傷害と病理学的変化との関連性について解明することを目的とする。酸化傷害がAD脳の初期の神経細胞変性過程においてどのような役割を果たしているのか、それによって認知機能障害発現にどのように関連しているのかが明らかにされれば、ADの病態解明ならびにADの治療・予防ストラテジーの構築の上で、きわめて意義深いものと考えられる。今回、各群の剖検脳組織において核酸の酸化傷害の指標である8-hydroxyguanosineを免疫細胞化学的に検出し、画像解析を行ったところ、神経細胞内酸化傷害は、最軽度AD群および軽度AD群で対照群およびpreclinical AD群に比べて有意に増加していた。以上の結果から、神経細胞内の核酸の酸化傷害がADにおける認知機能障害の発現に密接に関連していることが強く示唆された。
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